その手を繋げば
「……あ。起きましたか?」
ゆるゆるとまぶたを開いてみれば、目に入るのは自室の天井、そして彼。
自力でベッドに横になった覚えは無いが、しかし彼がいたのなら納得がいく。
「……次はちゃんと横になれる場所で寝てくださいよ?」
窓から雨を眺めていた時の事を思い出す。
ただ窓の縁に肘を置いて頬杖をし、目を瞑るだけで寝れる自分に苦笑するしかない。
「雨は大丈夫だったのか、極」
ふとあの大雨の事も思い出して、彼が濡れずにそこにいる事に疑問を抱いた。
「ああ、それなら」
と彼はいいながら窓を見やる。
それにつられるように窓を見て、その明るさに驚き、その空に、吸い寄せられるように見入ってしまった。
数刻前の雨雲が嘘のように、空は青かった。
「やんだみたいです」
ただ青々と広がるその空を見、ふと思う。そこに「在る」という事実は不変の事、だが何故その顔は絶え間なく変わり続けるのだろう、と。
「……いい天気だ」
その言葉を口にしたのは随分と久々のような気がする。
「お茶でもします?」
「そうだな」
「行きましょうか」
差しのべられた手に手を重ね、そこに在る彼の温もりに安堵する。
ずっと触れたかった、当たり前のように繋がれた手。しかしそれは本当ならば互いを殺してしまう手なのに。
他愛ない会話に笑いながら、でも何故か心に不安が募るのを感じていた。
時々、ほんのたまに、ふとした瞬間に怖くなる時がある。
何故彼が側に居ることが当たり前になったのだろう。
“当たり前”と思ってしまう事でさえも、いけないのに。
それでも、わかりきっている答えを、無理矢理隠すように、忘れてしまえるように、笑うのだ。
「ヴィル?」
名を呼ばれる。彼には、隠しきれない。わかっていた。
封じたつもりだった不安が我慢できなくなる。そして、溢れる。
何故なのかわからない。
零れるのだ、涙が。
繋いだ手を、強く握る。
そこに在る彼の温もりを確かめる。
夢でも幻でもない。しかしこの瞬間があまりにも幸福すぎて、怖いのだ。
―――この私に幸福が与えられていいはずがない……
彼と繋いだ手と同じ手で、人を殺してきた。沢山の人間の幸福を奪った。
今感じている幸せも、うたかたの夢なのだろう。
―――なぜ私なんだ?なぜ、お前なんだ?
今更思っても遅いこと。わかっている。
そこに「在る」という事実は、変わらないのだから。
「極……」
名を呼んでみる。確かめるように。実感するように。
―――ああ、やはり私は……
たとえこの先の未来がどんな事になろうとも。この手が人を殺し続け、数多の幸福を奪っても。
「……離したくない」
「離しません、というより離すつもりさえありませんが」
手を握り返してくれる。
そして安堵する。
なぜ出会ったのか、とか、なぜ敵なのか、と思うにはもう遅すぎた。
「……じゃあ離れられるはずがないな」
「当たり前です」
離れられないくらい、側に居すぎて、当たり前になってしまって。
幸せを、ほんの少しの間でも感じる事ができるなら。
この手を、ずっと繋いでいたいと、願った。
―――――
何故か「絆」と似た感じの仕上がりになりました。
似てるだけで、繋がってはないんですけどね。
この話はリハビリその2です。ぶっちゃけ真面目にプロット組んだりして考えてません。思い付くまま、流れにまかせて書きました。
なので、おかしいところがあると思います。判りづらかったかも…?
小説って本当ムズカシイです…。
とりま、ヴィルが可愛ければそれで良いryすみません←
ここまでお付き合いいただいてありがとうございました!
08/08/11
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