その名を呼べば




珍しく大雨だった。

遠くでは雷の轟く音が聞こえ、時たまに、空を裂くような轟音が近くでも鳴り響く。

空が暗いように、気分も暗い。

窓に叩きつける大粒の雨と暗い曇り空をなんとなく眺めながら、ヴィルヘルムはまた一つため息をついた。

もう何度目のため息かもわからない。

この雨のようにじめじめした気分をどうにかしたい、とは思ってはいるものの、何かをする気力さえなかった。

読書も作曲も、紅茶の用意でさえも。

今日の仕事はいつもより少なめだったから、すぐに終わらせてしまった。

何もする事がない。何もやる気がしない。

ただ、一向にやむ気配を見せない雨を眺めているだけ。


「……」


沈黙の部屋に、ただ時間だけが流れていく。

独り、だということを嫌でも思い知らされる。

雨の音が鬱陶しいくらいに静かな部屋に響いていて。


「極……」


何故か口から出たのはその名前。

ここにいるはずもないのに、それでも、呼んだら答えてくれそうな気がして。

呼んだら、来てくれそうな気がして。


「極卒……」


雨の音にかき消される、小さく呟いた音。


―――お前さえいれば、十分なのに。


こんな雨の日だって関係ない。

仕事も読書も作曲も、紅茶の用意さえもできなくていい。

ただ、逢えれば。側にいてくれたなら。

もう何もいらないのに。


逢いたい、というそれ以外、何も考えられなくなった。

一度溢れたら、止まらない。けれど思ったってどうにもならない。

感情を抑える蓋をしようと、暗い雨の景色から目をそらした。

暗い景色、暗い部屋、更に暗い闇へと身を潜めるために、目を閉じる。

次に目を開けた時に、そこに在るものを期待して。


最後に、もう一度だけ呟いて、意識を闇へと沈めた。















―――――


ワアー中途半端!←
本当は、SS置き場にアップしようと思ったんですが、何か続きそうな予感だったのでこっちに。

続きあるなら書けよ!って話なんですけど!
や、でも続きも含めて1つの話として書いてたんですよ?でも何か変なんです。流れがおかしいんです。
でも切り捨てたり妥協したりしたくなかったんで、別々の話とすることにしました。
別々だけど、でも繋がってる気がする、みたいな。気がするだけ←

ちなみに「絆」とは繋がってません。あっちのあとがきで“次作の話と繋がる”って言ったけど、この話ではありません。
後々書きます。この話はリハビリです。ごめんなさい←

そんなこんなで色々ごめんなさいですけど、ここまで読んでくださってありがとうございました!

08/08/07






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