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過去か現在なのかわからない、しかし見覚えのある風景が目の前に広がる。

ただ最初は訳がわからずそこに立ち尽くしていたが……ああ、そうだ、ここは軍の拠点の僕の部屋だ。

無機質で頭が痛くなる構造が嫌いだった。嫌いだったから、この拠点の事はよく覚えている。

そういえば前ここにいた時は、警戒が厳しくなっていて、ちょっと部屋の外に出るくらいでも注意を受けたから、退屈をしていたところだった。

そう、今みたいに、いつも同じ足音が、同じ時間に廊下を横切る。

しかし、その日だけは、いつもと違う足音が、いつもと違う時間に部屋の前を通っていった、だから外に出てみたら、丁度良い退屈しのぎがいた。


「貴様には用はない。邪魔をするなら消させてもらうが」


遠く思える過去に聞いた時と同じ言葉を貴方は紡いだ。


「僕は貴様という名前ではありません。極卒君です」


僕は遠く思える過去に言った事と同じ言葉を紡いだ。

すると貴方は苛立ちを募らせて、僕を睨む。


そこにあるのは、憎悪。

知っている。今の貴方の中には、僕に対する怒りしかないのだと。

僕を殺す事意外、僕に興味を持っていないのだと。


最初は貴方の記憶の喪失かと思った。

しかし、よく考えてみれば、これは僕の過去の記憶でもある。

どちらかわからなくて、混乱していた。

貴方が僕を忘れている?それともただの記憶の思い出話?

混乱した僕は、睨みつけてくる貴方を前にして、何も考えられなくなった。

ただ、その事実が受け入れられなくて、ただ立ちつくした。

怒りの感情しか持たない過去の貴方、いや、過去に戻った貴方が、僕を殺そうと、その右手に魔力を溜めるのがわかった。

何故、と聞く間もなかったし、おそらく貴方は聞く耳も持たなかっただろう。

しかし、僕はその時、腰に下げた剣に手を伸ばしている事に気付く。それに気付いたと同時に、貴方が僕の用意していた術式で苦しんでいる事に気付く。

これは、過去の記憶だと、その時やっと自分を納得させる事ができたかもしれない。

そうでなければ、僕が貴方に刃なんて突き立てたりしないはずだ。

だけど、過去の記憶のはずなのに、僕は涙を流していた。

貴方に突き立てた刃が、ただ脅しの意味ではなく、命を奪う役目を果たしてしまったことに、僕は気が付いてしまった。

何故、とその時やっと問う事ができた。遅すぎる。わかっているのに。

そして、貴方は―――





その言葉の続きを、ふと忘れてしまった。同時に、意識が段々現実へと覚醒していくのを感じた。

夢を見ていたらしい。しかし、少し心臓の音がうるさい。今の夢は夢であるとは信じがたいほど、現実味を帯びていた。

意識がはっきりとしてきて、冷静に考える事ができるようになって下した決断は、この夢を忘れる事だった。

もう思い出したくも無い、嫌な夢だ。こんな夢をいつまでもひきずっていても、何も良い事なんてないだろう。むしろ支障がでるばかりだ。

しかし、それでも、簡単に気持ちを切り替える事ができずにいた。


貴方が僕を忘れてしまったら、どうすればいいんだろう。

僕は貴方を失ったら、どうすればいいんだろう。


そればかりを考えて、しかし答えは出ずにいて。

ただ不安になって、そして急に心配になって、彼に逢いたくなった。







「く、……極卒!」


やっとその声に気付いた時には、彼が呆れた顔でこちらを見ていた。

どうやら、彼が自分を呼ぶ声も聞こえぬほど、上の空だったらしい。


「今日はどうしたんだ、一体」


不思議な物を見る目つきで彼は言った。

その視線を感じながら、自分でもどうしたんだろう、と思った。

いつもなら、彼が自分を呼んでいるとわかれば、すぐにでも反応できる自信があったものだが。


「考え事をしていました」

「……お前が?」


彼は信じられないとでも言うような表情を作る。


「失礼ですね、僕だって考え込む事はあるんです」


そんな彼に反論をしてやったが、きっと冗談として受け取っているだろう。……冗談として扱ってくれたほうが、こちらとしても助かるが。


「それで?何を考えていた?」


彼は、珍しく上の空になるほどの考え事に、たとえ冗談であれ、興味を持ったらしい。

本当に冗談っぽく言い逃れてみようかと思ったが、それを出来る気分じゃなかった。


「……言えませんよ」

「何故だ?」

「貴方に笑われてしまうかもしれないから」

「笑われてしまうような事、とは……相当愚かな事のようだな」

「ええ、本当に」


もし、貴方が僕を忘れてしまったら、なんて、言えるはずもない。

もし、貴方を失ったら、なんて、考えるだけでも恐ろしくて口になんて出せない。

でも貴方が僕忘れるなんて、僕が貴方を殺すなんて、あるはずもない。

わかりきっていたはずだ。そんな事は、ありえないのだから。


「だったら、あまり気を病むな。お前らしくない」

「……はい」


気遣われているのだ、と思うと、嬉しくなった。

初めて出会った頃は、本当に鬱陶しそうにあしらう事しかしなかったのに。

想いを確かめ合ったばかりの頃は、素直な言葉さえ口にできなかったのに。

今は、築き上げた時間と想い出の上に、彼との絆がある。

なにものにも断つことのできない、絆がそこにある。


―――ああ、やはり、僕は……


「好きです」

「は?」

「貴方が好きです」

「とっ、唐突に何を……!」

「いえ。ただ確かめたかっただけです」


自分の気持ちと、彼の想いと。

揺らぐ事の無い意思と、誓いを。

手に入るはずのなかったこの関係を、手放す真似なんてしない、と。


「言わずとも……わかっている……」


もう拒まれる事がない。素直に受け止めてくれる彼がいる。

それだけで良いはずなのに。


―――あんな事を思ってしまうなんて、僕は愚かだった


恥ずかしげに顔を赤らめ、目線を必死でそらそうとする彼が愛しい。

手を伸ばしても、抱きしめても、もうそこに拒否の反応は無くなっている事を実感して、嬉しくなって、安心して。


絆を思う日があればそれでいい。

少なくとも、今はそれだけで十分だ、と、彼の温もりと呼吸を感じながら、自分に言い聞かせた。















―――――


実は6月6日頃の作品←
何故アップしなかったというと、次作の話とリンクしていて、この話はまだ続く、っていうか、序章みたいな、布石みたいな。
実は過去作品ともリンクしてるんですが、あの話はもう恥ずかしいので是非忘れて欲しいです←

夜の女王のアリアを聴いてたらふと思いついたネタです。
ドイツ語の歌詞を日本語訳したのがあって、それを見てたら、「きーーーーーーずな」って「ー」この棒線がめちゃくちゃ長かったから、何コレ?と思って、曲聞きながらドイツ語を目で追って、その部分だけ日本語で歌ってみて納得、すげぇ長い。
そんで、「絆か……なんか、いいよな」って思ってピンときたのがこの作品です、説明長い!

私の今の極ヴィルはもう、絆、って一言で片付けられるレベルに達してるほどラブラブだと思うんですが。
むしろラブラブ以外書きづらいんですけど。何故。

…まぁ何はともあれ、更新できてよかった←

08/07/23






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