スウィート・シエスタ




「……ヴィル?」



大きな両開きの玄関の扉を何度叩いても反応がない。

いつもなら数秒で鬱陶しそうに扉を開ける彼がいるはずだった。



―――僕の事を無視するなんて……いい度胸です。



極卒が扉を開こうとすると、扉には鍵が掛かっておらず、すんなりと開いた。

そして彼に一言言ってやろうと、遠慮も無く踏み入り、彼の姿を捜す。

だがいつもいるはずの書斎に彼の姿は無かった。遅めの朝食をとっているのかと思っても、読書中であるのかと思っても、彼はいない。

もしや、と思い寝室の扉を開けると、昼下がりの太陽が部屋を照らす中、彼は深い呼吸を続けていた。

まだ寝ているのかと半ば呆れながら、眠り続けている彼に近づき、寝台をそっと覗き込む。

彼は少し髪を乱して、夢の中にいた。

整った顔立ちに美しく紅い髪が映える。

計算されたような綺麗な寝顔を極卒はしばらく眺めていた。



―――全く……無防備ですね。こんな可愛い寝顔をされては悪戯したくなる。



かすかに呼吸の音が聞こえる。

その間隔は一定で、起きる気配はない。

そっと、髪を撫でる。さらさらと指の間を紅が零れていった。

何度も柔らかい髪を指に絡めたが、それでも彼は起きない。



ならば、と。



極卒は寝台に身を乗り出し、彼の手で彼の頬を包み込み、唇に軽く口付けた。

重なった時の柔らかい唇の感触が心地よくて、もっと味わっていたくなる。

何度か角度を変えて軽く触れるだけのキスを繰り返していると、彼はか細い声を上げた。

起きたのかと思い、顔から離れて様子をうかがっていると、彼は眠たそうに目をこすって、極卒の姿を認識する。



「ごく……?」

「起きました?もうお昼ですよ、いつまで寝ているつもりです?」

「あと少し……」



昼、だと伝えたはずなのに、ヴィルヘルムはそう言って、また布団の中にもぐりこんでしまった。

極卒は再び安らかな呼吸を始めようとする彼に、ため息を一つこぼすと、顔まで被さっている布団を跳ね除け、今度は奪うように口付ける。



「ん……っ」



貪るように口腔を味わっていると、彼の弱々しい抗議の手が極卒を叩く。

満足するまで口唇を契り、彼を解放してやると、彼は恥ずかしさから頬を紅潮させ、照れ隠しに布団を頭まで被ってしまった。



「ヴィル」



彼の名を呼んで、極卒は彼と並ぶように寝台に横になった。彼の顔が見えるように布団を除けると、彼はまだ顔を赤くしたままだった。



「……休日くらいゆっくり寝かせてくれてもいいだろう」

「すみません、貴方の寝顔が可愛くてつい。もう一度寝ても構いませんよ?」

「……あと1時間したら起こせ」



そう言って彼は極卒の手を取り、両手で包み込むとそのまままた眠り始めた。

暖かい両手につつまれた極卒の手は彼の頬に触れるか触れないかの位置にある。

少しうつむき加減で、穏やかに眠る表情の彼が愛しくて、空いた手で彼の前髪を少し除けると、今度は額に触れるだけのキスを落とした。

綺麗に整った顔が少しだけ微笑むように見えたのは気のせいだろうか。



「……さっき僕を無視したのも許してあげたくなるじゃないですか」



そう呟いたのは言葉が彼の耳に届かなくなってからの事。

彼の寝顔が可愛くて何もかもどうでも良いと思ってしまった事が悔しい。

彼の手の温もりも心地よくて、離したくないと願ってしまう。ずっとこのまま、時が止まってしまっても構わないと極卒は思った。
















―――――


あとがき


あ、甘すぎる…!うわああ(←
いや、甘々好きですけど、ね?甘すぎはちょっと、ね?

でもヴィルが可愛いので何でも許される気がします!(ちょ
…あ、すいません調子のりましたorz

休日くらいゆっくり寝たい、という気分から書いたので、ヴィルもそうなりました^^b


07/11/23






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