叶わないと知っているから
外の景色が、朱に染まり始めた頃。
沈黙を守る空間に、扉の軋む音が異様に大きく響く。
部屋の主はその音に反応することなく、一定の呼吸を続けていた。
皮張りの茶色いソファにうずくまっているその人物に、侵入者は音もなく近づく。
やがて、紅色の髪が手に届く位置までやってくると、彼はそのまましゃがみこみ、その白い手で髪を撫でた。愛しさを込めるように、何度も。
深い眠りに落ちているのか、紅い髪の持ち主は依然として呼吸を乱さない。
そんな彼に、その安らかな寝顔に、口付けを落とす。起こしてしまわないように、優しく。そっと、触れるように。
……こんな事をしても、届かない事はわかっていた。
所詮は片思い。自分が一方的に恋しただけ。
振り向いて貰えるなんて、甘い考えは持っていなかった。
―――愛しても、愛しても。貴方は、僕以外の誰かが好きなのだから。
呼吸が聞こえるほどにこんなに側に居るのに、遠い。
口付けることが出来るほど近いのに、こんなにも、遠い。
この恋が叶わないと知っているから、愛さないと決めたはずだった。
叶わないと、知っているはずなのに。
「……好き」
静かに呟く。
「好きです……ヴィルヘルム」
この想いなんて、届かなくてもいい。ただ、好きだから。
―――愛するだけなら、許されるでしょう?ねぇ、神様……
―――――
あとがき
うわああ過去最強に短文で申し訳ないです!
こう、届かない距離にある関係も好きです^^b
切ないのも、甘いのも極ヴィルなら何でもいけます。いける気がします。
余談ですが…
某文章処理ソフトで、ページ設定は初期設定のまま、1枚分に収まったという短文ぶり…
次からは、もっと頑張ってみます……予定。
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