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お菓子よりも甘いもの




「トリックオアトリート!!!」

「……は?」



目の前に立っているのは、いかにも『魔女』な格好をした極卒。

黒いワンピースドレスに、黒い三角帽。手から下がるかごの中には、飴玉やキャラメル、チョコレートなど、見ているだけでその甘さに卒倒しそうなお菓子ばかりだった。



「それだけお菓子があるのなら別に……」

「駄目です!ヴィルからもらわないと意味がないのです!!」



意味がわからない事を極卒は力強く言う。

半ば呆れながら、このお祭り気分な極卒をどうやって追い返そうか、とヴィルヘルムは考え始めた。



「……お菓子なんて用意してないぞ」

「では別のもので代用してください。何でもよろしいです」

「金を払えばいいのか」

「そんな!愛がないですね……」

「じゃあどうしろと言うんだ」



ハロウィンごときでうかれている極卒に内心苛立ちを覚えながらヴィルヘルムは言う。

まだ仕事が残っているというのに、いちいち相手にしている暇もないのだ。

目の前で悠長に祭りを満喫している極卒がうらやましい。

祭りを楽しむ時間を、少しでもわけてもらいたいくらいだ。

まだ処理していない書類の末路をどうしようかと悩みながら、極卒の返事を待つ。



「そうですね……では、甘い物をください」

「だからお菓子はないと」

「キス、じゃあ駄目ですか?」



今の言葉を聞き間違いだと願いたかった。

返答に迷っていると、極卒はさらにこう続ける。



「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、と言いましたが?」



いつの間にか、二人の間に距離は無く。

腰に手を回され、抱き寄せられてしまえば、もう逃れる事はできずに。

……書斎の机の上に魔石を忘れてこなければ、今すぐ魔術で吹っ飛ばした所なのに。



「んっ……」



抵抗もままならないまま、強張る唇に、優しく口付けが降る。

何度も何度も、角度を変えて口付けられ。

唇を吸われ、舌でなぞるように舐められ、愛撫のたびに、快感に震える。

甘噛みされれば、かたくなに拒んでいたはずなのに、次第にほころんでいって。

高鳴っていく心臓に、呼吸も苦しくなる。

空気を求めて口をわずかに開けば、口腔に舌の進入を許してしまった。

触れるだけだったキスは、激しさを増していく。



「ふ、あっ……んぅっ……!」



わざと卑猥な水音を響かせて、極卒は舌を絡めてくる。

みだらな音が耳に届くたび、心臓がうるさく高鳴っていって。



(……あま、い……?)



彼は先程まで、お菓子を食べていたのだろうか。

彼の舌は甘い砂糖の味がした。

その味に驚いていると、抵抗を忘れた舌はさらに絡め取られてしまっていた。

甘く疼く感覚に、膝が震え、腰から力が抜ける。

いつの間にか、極卒にしがみ付くように、口唇を契っていた。

やっと、唇が離れたかと思えば、彼は意地悪く笑みを浮かべていて。



「お菓子を用意していても、キスするつもりでしたけどね」



その言葉に頬が一気に熱く火照るのを感じる。

足はまだ力が入らない。腰を極卒に支えられたままだった。



「ふざけるな……」

「どうして?力が抜けちゃうくらい、よかったのでしょう?」

「仕事が残っているのに……これでは集中できんだろうが」

「では、責任を取らねばなりませんね!」



嬉しそうに、極卒は言う。

……もしかして、これが狙いだったのではないのだろうか、と思うほど、いい笑顔をしている。



「待て、極卒」

「待ったなしです」



そう言うと極卒は軽々とヴィルヘルムを抱きあげてしまった。

睨みつけようと、極卒の顔を見やるも、変なコスプレのせいで、怒る気も失せる。



「もっと良くしてあげますから……ね?」

「何が、『ね』だ!」



言葉では抵抗しつつも、極卒を拒むことができないのがもどかしい。

今暴れて床に落とされでもしたら困る。

だがこのままでは……



「くそっハロウィンなんて嫌いだ!!」



その言葉も虚しく、夜は更けていくのであった。














―――――


あとがき


携帯サイトにてフリーでした〜
現在は配布しておりません。

魔女な極卒君がヴィルヘルムをお姫様抱っこしてる
絵が描きたかったですキイイ!←


07/10/22












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