荒野に咲く白い花を




何もかも消えてしまった荒野の中で、ぽつんと咲いている花を見つけた。

小さく白い花だった。

枯れた大地の裂け目から咲く花は、気高くて美しく見えた。

ふと、愛しい人の顔が頭をよぎる。



―――そうだ、摘んで彼に見せてあげようか。



手を伸ばし、花に触れるが、その途端、罪悪感を感じてしまった。



摘んではいけない。

そう告げる声がして。



「……君は生きてくださいね……何にもないこの土地を花園にしてしまうまで……」



花園になったら、彼とここを訪れよう。

白い花に囲まれた彼の赤い髪が美しく映える様を思い浮かべ、極卒は笑みをこぼす。

赤い大地に白い花。

それをよく目に焼き付けたのち、極卒は彼に会うために帰路を辿った…







「……それで私にこの花を?」



それは荒野に咲く花と比べるとあまりにも大きな花だったが。



「あなたに何もあげる物が無いな、と考えると少し哀しくて。」



長い間、会えなかったのだ。久方ぶりに会うのに捧げる物が無いなど、良心が痛む。

……きっと、戦争の土産話など、あなたは喜ばないだろうから。



「……こんな物無くとも……お前が帰って来ただけで十分なのに……」



ぽつりと彼がこぼした言葉が、少し信じられなくて、わざと極卒は聞き返す。



「え?今……、」

「な、何でもない!忘れろ!」

「照れないでくださいよ」

「照れてない!」



そうは言いつつも彼は、顔を赤らめて下をうつむく。



その姿があまりにも愛しくて。



「ヴィル」

「……何だ」



彼の体を引き寄せて、その白い肌に手を添え、柔らかい唇に口付けを落とす。

最初は驚きから身をこわばらせていた彼も、目を閉じてそれを受け入れていた。

ゆっくりと唇が離れると、そこに赤い瞳が映った。

しかしその瞳には哀しみが宿っていて。



「……また戦争に行くのか」

「すぐに終わりますよ」

「死ぬな」

「あなたの為なら意地でも生きてやりますよ」



……あなたの為に、死ぬわけにはいかない。

彼の手にある白い花を見て、極卒は思う。



「……そうだ、次僕が帰ってきたら、一緒にその花を見に行きましょうね」



次の戦争が終わるまでには、荒野は花園にもなっているだろう。

……それだけ長い間、また離れてしまうが。

彼と荒野に咲く白い花を見るまで、生きてみせると極卒は誓った。










―――――


あとがき


うおおお恥ずかしいいいいい(←

小説って、書いてるときはノリノリなんですが、
書き終わった後が大変です。

うん、甘い感じの極ヴィルが書きたかっただけです!

07/09/09






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