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花言葉




廃墟と化した夜の街には、敵とも味方ともわからぬ死体が転がっていた。

雨は、まるでその血を洗い流しているかのように、ささめ降る。

酷い戦いだった、と振り返り思う。

激戦が繰り広げられていたはずの場所も、今はしん…と静まりかえっている。

敵も味方も、人影一つとして見つからなかった。

全滅だった。すがすがしいほどの。

この結果に、組織は黙ってはいないだろう。意図的に全滅に導いたのなら尚更。

何せ今宵の戦いは、負けるわけにはいかなかったのだ。組織の精鋭が集結していたはずだった。

なのに、皆死んだ。一人の人間の我が儘のために。


彼に逢うためには、こうするしかなかった。

以前、戦場で思わず彼を助けてしまった時に、その行動を問題視されてからずっと、戦場でしか逢えない日々が続いていた。

だが今日は違う。今は誰も再会を咎める者はいない。死体は語らないのだから。

全滅という犠牲。後の組織の処罰も、覚悟の上だった。


霧のような雨を全身で浴びながら、雨雲を避けて覗く満月を見やる。

不思議な夜空だった。まるで雲が満月の為に窓を用意しているかのような。

数多の死体を照らす月の光は、何故か神秘的にさえも見えた。雨も、月の光に煌いて見える。

何故だろう。周りには死体しかないのに、血で汚れた戦場のはずなのに、すごく、美しく見えてしまう。


「ヴィルヘルム」


誰もいなくなったはずの場所に、その声が響く。

求めていた声に、心臓がとくんと鳴った。

そっ…と後ろから抱きしめられる感覚があり。

雨に冷えた身体に感じる彼の体温が心地よくて、そして、嬉しくて。


「逢いたかった」


小さく耳元で囁かれる。鼓動が高鳴っていた。

同じ気持ちだと伝えるように、回された彼の腕をぎゅ、とつかむ。

戦いの終焉に手に入れたこの時間を、どれだけ待ちわびていたか。

僅かしかなくても、構わなかった。逢えるのなら。


「そうだ、此れを貴方に」


そう言った彼の手の中を見れば、そこにあったのは、血のように赤い薔薇。

戦場に在ったというのに、潰されずに咲いている。

あまりにも綺麗な花弁に、雨の雫が煌いていて。

彼はいつもより少し真剣な顔を作って、ヴィルヘルムと向かい合う。

貴重なものを扱うように両手で目の前に差し出して。


「貴方を愛します」

「……それは薔薇の花言葉だったろう」


嬉しいはずなのに、意地が悪い言葉が口から紡がれる。

だけど。それでも…期待、してしまう。


「いいえ……それは、敵である僕が望んではいけない想いです」

「叶うはずがないのに、望んでいる」

「貴方もでしょう?ヴィルヘルム」


望んでも手に入るはずがなかった。だから、望んではいけなかった。

けれども。止められなかった。


愛してしまった。


それが過ちだと気付いておきながら。この許されぬ一つの愛のために、どれだけ犠牲が生じようとも。

今宵の戦いでも、我が儘のために敵も味方も全滅に追いやった。後にその責任を問われるだろう。

それでも、犠牲の上に作られた僅かな時間だけでも、逢えるのなら。

この愛を、幻想ではない、と。ただの夢ではなかったのだ、と、確かめられるのなら。


「……私は……あなたを愛する」


薔薇の花言葉。

だけどそれは、誓うように想いを込めて呟いた言ノ葉だった。

彼の手から、それを受け取る。

両手で大事に、しっかりとその手の中に入れて。

彼の想いが、自らの誓いが、それが全てこの薔薇に込められている。

儚くて、でも、だからこそ、美しい。

薔薇に向けていた視線を、ゆっくりと彼へ向けた。

優しく微笑みながら、彼は見つめてくれている。

視線が絡み合い、鼓動が、高鳴っていく。

彼の手が、そっ…と頬に触れた。

暖かい。

雨に冷えた頬が温まっていく。

そのまま、両の手で、包み込むように、顔を上向かされ。

互いの距離が、近づいていく。

目を閉じた。

甘く、優しく、唇が重なった。

胸に、熱い気持ちが広がっていくのを感じる。

鼓動が、うるさいくらいに高鳴っていた。

愛が、手に入れられるはずのないものが、今は確かにここにある。

しかし、それは永遠では無い事はわかっている。

それでも、失いたくない。

そう願っても、叶うはずが無い。そればかりか、いつか遠くない未来に全て失ってしまいそうな予感を振り払えなかった。

離れていく。手放したくないと願っても、遠くに。

唇が離れても、まだかすかに余韻が残っていた。

目を開けたくなかった。余韻が、消えていきそうな気がして。

消えてしまったら、もう二度と手に入らないような気がして。


「ヴィルヘルム」


胸の奥まで響いていくような、甘い、声。

ゆるゆると瞼を開けば、幾度と見た、愛しい人がそこに映る。


「愛しています」


……知っている。胸が苦しいほどに。

何故か、突然、涙がこぼれた。自分でも訳がわからなかった。

その涙をすくうように、彼は目元に口付けて。

嬉しいはずなのに。涙は、余計に止まらない。


―――ああ、苦しいのか。


何故か客観的にそう考えている自分が不思議だった。

手放してしまう今。手に入らない未来。それを想って、苦しくて、泣いているのだと。


もし、敵同士じゃなければ……泣かずに済んだ?

もし、この運命を知らなければ……悲しまずに済んだ?

もし、貴方じゃなかったら……苦しまずに済んだ?


そう心の中で問うも、しかし答えは既にわかっているはずだった。

彼だから、愛したのに。わかっているのに。


……遠くない未来。また、戦いは始まるのだろう。

その時はもう、組織は私を信用してはいないだろう。

敵は彼。私が彼を愛しているのを知っていながら、組織は命ずる。

私達は殺し合わねばならない。何も得る事の無い戦いで。

そして失わなければならない。大切なものを。


―――もし、戦いのない、平和な時代に生まれていたら、同じように、それ以上に、愛してくれた?


それを聞けぬまま、時は過ぎ去っていく。

望まない未来が、近づいてくる。


「もう行かなければ」


最後に軽く、彼は頬に口付けをくれる。

足りない。それだけじゃ、全然足りないのに。


「……また、逢える、だろう?」


本当に聞きたいのはそんな事じゃない。

本心が、素直に出せない。意地がそれを邪魔する。


「……ええ」


悲しみを漂わせ、笑う。


離れていく。離れたくないと願っても、遠くに。


二度と手に入らないほど、遠くに。


姿が見えなくなっても、そこから動く事ができなかった。


そこに遺され、在るものが、ただ受け入れられなくて。





未来と言う名の残酷な運命と、

未来のために遺された『愛』の言葉をもつ血のように赤い薔薇だけ。















―――――


GW企画用でしたとさ。
今改めてみてみると、「ああ…瀕死だったんだ私…?」ってわかる^q^

アップしようかすごく悩んでました。あまりにもアレなんで、恥ずかしいので、このまま消えてもいいかな…て思ってましたけど。
最近小説アップしてないので…貧乏性なので…はい…すいません…。


でもこんなクソ甘いのもたまにはいいんじゃない…?ね?でも敵味方全滅させちゃったヴィルはちょっとやりすぎである。
それに便乗する極も頭おかし…あ、最初からおかしいか←

でも一番頭おかしいのはこんな話考えた私ですね。すみません。ちょっと反省してきます。

08/05/03の頃の作品






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