安らかな眠りの為の
少し眠れずにいて、しばらく寝台から窓の外の月を眺めていた時の事だった。
控えめに扉を叩く音が、そしてその後すぐに小さく扉が開いて、彼が姿を現す。
「極卒……起きている、か?」
「ヴィルヘルム、一体どうしたのです」
彼は極卒が起きている事がわかると、質問には答えずに部屋に入るなり、真っ先に極卒の寝台へと潜り込んできた。
何事か、と思いつつ、しかし、彼からやってくるなんてめずらしい。
冗談でも言って少し彼をからかおうか、と思いを巡らせて布団を除けてみたが。
「ヴィル……?」
彼は震えていた。
身を小さく丸めて、自分を抱きしめるように腕を強く抱いて、震えていた。
―――また例の夢を……。
彼が夜中に悪夢を見て目覚めてしまう事があるのは知っていた。
しかし、その強大な魔力から同じ組織の人間からも恐れられている彼が、悪夢ごときでこんなにも小さく、弱く震えるなんて。
―――……僕は何もしてあげられない。
小さく震える彼を、慰めるように、その髪を撫でる事しかできない。
彼が落ち着くまで、彼が安らかに眠れるまで、側にいてやれることしかできない。
「ヴィルヘルム」
虚ろに暗闇を見つめるだけだった彼が、その声に反応してこちらを振り向いた。
その瞳に映る恐怖。その恐怖を分かってあげる事ができない自分が腹立たしい。
だけど、せめて。その恐怖が和らぐなら。
恐怖で強張った顔を優しく撫でてやり、そして両の手で包み込んで。
軽く触れるだけの、口付けを。
始めは抵抗しようと、極卒の手を掴んだ彼も、何故かその手から力は抜けていって。
軽く触れるだけで済ませようとしたキスも、離れがたくて。
ゆっくり、唇を離して、彼の顔を見やると、そこにはもう恐怖の表情はなかった。
「震え……止まりましたか?」
「あ……」
彼は恐る恐る自分の両手を見やる。
空中にかざした手に、震えは無かった。
「良かった。もう眠れますでしょう?」
「……極、」
少し不安の残る声。
彼の言葉に耳を傾けようと、極卒は待つ。
「どこにも、行くな」
「……勿論です。貴方が望むなら尚更。」
その答えを聞き、安心したのか、彼は目を閉じると静かに寝息を立て始めた。
愛しい寝顔を眺めながら、もう一度額に口付けを落とした。
悪夢から彼を守ってくれますように、と。
どうか、良き夢を見られますように、と。
―――――
ありがちなネタですみません…
震えるヴィルが書いてみたかったの!ただそれだけなの!←
08/03/14
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